素焼きの人形にそのまま着色することで土本来のぬくもりを感じられる博多人形。その姿は優しい雰囲気を漂わせながらも美しく、猛々しく、ときに微笑ましいものです。そして、今にも動き出しそうなほど生き生きとしているのは、職人が人形に吹き込んだ魂の表れ。構想・デッサンを繰り返しながら人形の姿を決める「原型」に始まり、人形に色を着けていく「彩色」、顔に表情を付ける「面相」など、優れた技術と惜しみない手間の結晶として生まれるのが博多人形なのです。
博多人形を大量生産品だと思われる方がいますが、それは違います。大きく分けて、世界で1点しかない作品と、型による複製品の2種があるのは事実ですが、石膏型の元となる原型を作れるのは熟練の職人のみ。さらに、その型に粘土を押し込んでいくのにも指先でミリ単位の厚みの違いを判断できる高い技術を要する人形への着色は筆のみで行い、下書きは一切しません。職人の頭のなかにあるイメージだけで同じクオリティの複製品を作り上げていくことに、驚かされるのではないでしょうか。かつては、贈答品として買う人が多かったため、大きなサイズが好まれていた博多人形ですが、現代ではリビングの一角にさりげなく飾れる小さめの作品も多く手がけられています。大きさは違いますが、職人たちが作品に注ぐ情熱と用いる技術は同じです。400年以上にわたり継承され、磨きあげられてきた匠の技を感じてみてください。
福岡市の七隈地区で採れた白土が原料。作品によって赤土を用いることもあります。
人形師自ら手作りしたヘラなど、職人それぞれで自分の手になじむ道具が使われています。
「原型」工程のときからどんな色付けをするかなど、すべて人形師の頭の中でイメージされています。
筑前福岡藩初代藩主・黒田長政が招集した職人によって作られた素焼き人形が博多人形のルーツといわれています。写真は黒田長政が1601年に築城した福岡城の現在の姿。今なお残る石垣や櫓が当時の面影を残しています。福岡城は福岡市随一の桜の名所としても有名です。
人形のフォルムを決める「デッサン」「原型」に始まり、中の粘土をくり抜いた人形を乾燥させ、焼成の行程へ。その後、素焼きした人形に着色していく「彩色」、顔に表情を入れる「面相」を経て、一点ものの博多人形が完成します。製作開始から終了まで、およそ2、3ヶ月を要す、大変な作業です。
着物の細かい模様もすべて手描きしており、人形師は「デッサン・原型の段階で、頭の中で完成品のイメージができていないといけない」と話します。とくに驚かされるのは、日本の織物特有の細かな柄・模様まで手描きで表現している点です。
博多人形の分野は多岐にわたり、意匠、趣ともにさまざまです。美人もの、能もの、歌舞伎もの、童ものなどが博多人形の代表格です。とくに優美さと艶が際立つ、美人ものが人気です。
歌舞伎もの。写真は歌舞伎十八番の一つ「矢の根」の1シーンを再現しています。
歌舞伎ものをデフォルメした博多人形。デフォルメした人形も博多人形の特徴です。
女の子のための行事「ひな祭り」で飾られる雛人形。どの作品もサイズが小さく、現代の暮らしにマッチするものばかりです。